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生成AIを使う日本企業は86.4%、それでも「業務変革」が進まない理由

令和8年版情報通信白書が示す日本企業の生成AI利用率86.4%。しかし業務変革では海外と差が残る。利用率と成果の違い、先進企業の事例、経営者が取るべき短期・中期のアクションを解説する。

文: SUKUMO7分で読めます

30秒でわかる記事要約

  • 日本企業の生成AI利用率は86.4%まで上昇し米独に接近したが、用途は議事録・メール作成など個人作業に偏る
  • 「組織的な取り組みがない」企業が27%と海外3か国より突出し、業務変革では依然差が残る
  • 先進企業はAI導入からではなく、既存の業務改善文化と課題起点でAIを活用している
  • 利用率は経営成果の指標ではなく、作業時間削減や売上・成約率など事業成果で測るべき
  • 経営者の問いは「社員がAIを使うか」ではなく「知識と意思決定の仕組みが変わったか」

会議の議事録をAIに起こさせ、メールの下書きを書かせる。2026年の日本の職場で、その働き方はもう珍しくない。総務省が2026年7月に公表した「令和8年版情報通信白書」によると、何らかの業務で生成AI生成AI(Generative AI)生成AIとは、テキスト・画像・音声・コードなどのコンテンツを人間の指示(プロンプト)に応じて新しく生み出すAIの総称です。大量のデータから学習したパターンをもとに、質問への回答や文章作成、要約、翻訳などを自動で行います。ClaudeやChatGPT、Geminiが代表例です。詳しく見る →を使っている日本企業は86.4%に達した。2024年度は55.2%だったので、1年で31.2ポイント上がったことになる。

ただ、同じ白書にはもう一つの数字が載っている。生成AIによる業務変革に「組織的な取り組みはない」と答えた日本企業が27.0%。米国は1.4%、ドイツは4.9%である。使ってはいる。しかし、会社として何をどう変えるかを決めていない企業が、4社に1社以上ある。

1年で31.2ポイント。利用率は米独に並んだ

調査は2026年1月から2月にかけて、日本、米国、ドイツ、中国の企業に対して行われた。答えたのは従業員10人以上、2025年までにデジタル化に着手した企業の管理職以上で、有効回答は日本515社、他の3か国が各309社。もともとデジタル化に動いている企業が母集団なので、日本企業全体の平均より高めに出ている数字だと見ておいたほうがいい。

そのうえで伸び方を追うと、動きは大きい。「積極的に活用する」「領域を限定して利用する」と答えた企業の合計は68.9%で、2024年度の49.7%から19.2ポイント上がった。何らかの業務で使っている企業まで広げれば86.4%になる。中国だけが98.1%と抜けているが、米独との差はもう数ポイントしかない。

個人の利用経験率も58.8%まで伸びた。2024年度は26.7%である。ただしこの2つは並べて比べられない。2025年度の調査から15~19歳が対象に加わったためで、20歳以上に限ると52.2%になる。倍近くに増えたことは確かだが、公表値の32.1ポイント増をそのまま引用すると実態より大きく見える。

使い道は、議事録とメールで止まっている

日本企業でいちばん使われている業務は「議事録・メール作成補助」だった。約7割が使い、効果を実感した業務としても最多に挙がっている。多くの会社にとって、生成AIはいまのところ文章を書く手間を減らす道具である。

米国と比べると、この偏りがはっきりする。研究・商品開発、製造・生産、経営、法務、社内システム開発——事業そのものに近い領域では、いずれも米国企業の利用率が総じて高い。日本で先行しているのは、従業員が一人でこなす作業の効率化だ。米国では、売るものを作る工程や、顧客と向き合う工程にAIが入り始めている。

差がついているのは、使っているかどうかではない。どこまで使っているかである。

「組織としては何もしていない」が27.0%

白書は、業務変革への取り組み状況も聞いている。日本で「組織的な取り組みはない」と答えたのは27.0%。米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%と並べると、日本だけが桁違いに高い。全社横断で事業変革やイノベーションに取り組んでいる割合も21.5%にとどまり、米国の35.6%、中国の40.9%を下回った。

土台の整備でも、日本企業は海外3か国より軒並み低い。業務プロセスを見直すための知識を学ぶ場、活用を支える専門家やサポート体制、分析に使える社内データの整備、生成AIが参照できる社内データベース、社員がAIアプリやAIエージェントAIエージェントAIエージェントとは、目標を与えると自ら手順を判断し、複数の作業を連続して実行するAIの仕組みです。従来のチャットAIが「質問に答える」だけなのに対し、情報収集・判断・ツール操作までを自律的に進める点が特徴です。詳しく見る →を自分で作れる技術環境。この5つが欠けたまま、アカウントだけが配られている会社は少なくないはずだ。

アカウントの配布は、AI活用の開始ではない。開始の準備である。

先に進んだ企業は、AIの話から始めていない

白書には、先行企業へのヒアリングも載っている。読むと共通点が一つある。どちらもAIの話から入っていない。

中外製薬は、生成AIの一般利用から業務変革までを段階に分けた戦略として整理している。起点は事業部門が抱える課題で、DX推進部門はその技術面を支える側に回る。人の判断や確認を工程のどこに挟むかという「ヒューマン・イン・ザ・ループヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)とは、AIの処理プロセスの途中や結果に人間が関与し、判断・修正・承認を行う仕組みを指します。AIの自動化と人間の監督を組み合わせ、精度と安全性を高める設計思想です。詳しく見る →」の設計も重視している。

不動産と介護を手がけるアイニコグループは、各事業部門に「何を解決したいか」「どこまで到達したいか」を決めさせたうえで、専門企業の支援を受けながら1年かけて検討した。同社の報告によると、介護事業の送迎ルート最適化や不動産事業の問い合わせ対応の自動化などで、全10事業部あわせて年間2,247時間を削減したという。第三者が検証した数字ではないので、そのまま自社の期待値にはできない。

それでも参考になるのは、削減時間そのものではない。同社はAIを入れる前から業務フローとチェックシートを整え、業務を改善し続ける文化を持っていた。AIを入れたから業務が整理されたのではなく、業務を整理する習慣があったからAIを改善につなげられた。順番が逆だと、同じ道具を入れても同じ結果にはならない。

経営者が見るべき数字は、利用率ではない

86.4%は、普及を示す数字としては正しい。ただ、社員が議事録作成に使っていることと、それが利益や顧客価値に届いていることは別である。利用者数やプロンプトプロンプト(Prompt)プロンプトとは、ChatGPT、Claudeなどの生成AIに対して人間が与える指示や質問の文章のこと。AIはこの指示内容に沿って回答を生成するため、プロンプトの書き方次第で出力の質が大きく変わる。AIを業務で使いこなす上での基本操作にあたる。詳しく見る →数をいくら追いかけても、後者はわからない。

見るべきなのは、業務に紐づいた変化のほうだ。対象業務の作業時間はどれだけ減ったか。処理できる件数は増えたか。エラー率は下がったか。売上や成約率は動いたか。顧客対応の速度と品質は変わったか。どれも、AIを入れる前の値を記録していなければ測れない。ここを飛ばして導入だけ進めた会社は、半年後に効果を説明できなくなる。

差を生むのは、社内データを渡せるかどうか

一般的な文章作成にしか使わないうちは、どの会社も同じ道具を同じように使っているだけで、差はつかない。自社の顧客情報、取引履歴、商品知識、過去の判断、現場が持っている勘所。こうしたものとつながって初めて、AIの答えは自社の答えになる。

そのためには、社内データを片づける工程がいる。どこに置いてあるか。中身は信頼できるか。誰まで見てよいか。外に出してはいけないものはどれか。地味で時間がかかる作業だが、ここに着手した企業とそうでない企業の差は、これから開いていく。

何から始めるか

まずこの3つ:1~3か月

  • 作業時間やエラー率を測りやすい業務を3つ選ぶ。全社に広げる前に、効果を数字で説明できる場所を作っておく。

  • 選んだ業務の現状——作業時間、処理件数、品質——を、AIを入れる前に記録する。後からは取れない。

  • 業務ごとに、AIに任せる範囲と人が最終判断する範囲を文書で決める。責任の所在が曖昧なまま運用を始めない。

仕組みに手を入れる:6か月~3年

  • 既存の業務手順にAIを足すのではなく、AIがある前提で工程を組み直す。

  • 社内データを整理し、AIから参照できる基盤を作る。

  • AI活用を評価制度に組み込む。改善が個人の善意で回っている状態を、続く仕組みに変える。

SUKUMOの視点

この白書で注目すべきなのは、利用率が米国に近づいたことではない。利用率と業務変革の数字が、同じ調査の中で正反対を向いていることだ。86.4%と27.0%が並んでいる。道具は行き渡ったが、それを何に使うかを決める人がいない会社が、日本にはまだ多い。

社員がメールと議事録をAIに任せる段階は、AI経営の入口である。そこで止まっても、個人の残業は少し減る。ただ、会社の競争力は動かない。

これから差を生むのは、使っているモデルの性能ではない。自社の業務をどこまで言葉にできているか。現場が持っている判断の根拠を、個人の頭の中からデータに移せているか。どの判断をAIに任せ、どの責任を人が持つのかを決めているか。この3つは、AIを買っても手に入らない。

日本企業には、現場で改善を積み重ねる強さがある。手順を書き出し、チェックリストを作り、少しずつ直していく。アイニコグループの例が示したのは、その文化がAIと相性がいいということだった。裏を返せば、ノウハウが個人に閉じたままの会社では、AIは会社の資産にならない。うまい人だけが少し速くなって終わる。

経営者が自社に向けるべき問いは、「社員はAIを使っているか」ではない。「AIを使ったことで、会社の知識と意思決定の仕組みは変わったか」である。

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