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AI経営コラム・論考

AI経営白書シリーズ 第6回 / 全27回

AI導入より重要な「業務の再設計」

非効率な工程にAIを足しても、複雑さが増えるだけです。成果を生む企業は、入力、判断、例外、責任を先に組み直しています。

文: SUKUMO6分で読めます

30秒でわかる記事要約

  • 非効率な手順にAIを足しても「速い非効率」になるだけ
  • 業務目的から逆算し、不要な承認・転記を削りつつ標準と例外を分ける
  • 導入前に処理時間・件数・エラーを測り、現場に設計の決定権を渡す

「AIを入れれば速くなる」という発想は、既存の業務手順を前提にしています。しかし、その手順自体が、承認が多すぎたり、同じ情報を何度も転記していたりと、そもそも非効率にできている場合があります。非効率な手順にAIを足すと、非効率な作業が「速い非効率」になるだけです。だからこそ、AIを検討する前に、その業務がなぜ今の形をしているのかを一度疑ってください。

第2回で見たDXの反省が、ここに直結しています。既存業務に合わせてシステムを作り込んだ結果、非効率な手順が固定された。同じ判断を、今度はAIで繰り返すかどうかの分かれ道が、この章の論点です。

目的から逆算する

前回は、組織図を責任の設計図として描き直す話をしました。今回はその一段下、日々の業務そのものに目を向けます。多くのAI導入は、既存の手順をそのままに、文章作成や検索だけを速くします。その結果、前後の工程に待ち時間や二重入力が残ったままになり、全体としての成果はあまり伸びません。ある一工程だけが速くなっても、その前後がボトルネックのままなら、会社全体のスピードは変わらない。現場を見ていると、何度も遭遇する光景です。

業務の目的を、「書類を作ること」ではなく、「顧客へ正しく早く回答すること」のように定義し直してください。見積書の作成という業務も、突き詰めれば「顧客が発注するかどうかを判断できる材料を渡すこと」が目的です。この視点に立つと、社内向けの体裁を整えるためだけの承認や、後で誰も見返さない保管作業が見えてきます。

目的が明確になれば、不要な承認、転記、保管を削れる場所が見えてきます。「念のため」で残っていた二段階の承認や、システムAからシステムBへ手作業で転記するだけの作業は、目的に立ち返ると、多くの場合そもそも必要がないことに気づきます。

こうした工程には、たいてい発生した理由があります。過去に事故が起きて承認を一段増やした、という類のものです。だから「無駄だから削る」と乱暴に進めると、現場は当然抵抗します。有効なのは、その工程が防いでいるリスクは何かを確認することです。今もそのリスクが残っているなら残す。すでに別の仕組みで防げているなら、削る根拠になります。

この確認をせずにAIを足すと、リスクを防ぐための工程が残ったまま、作業だけが増えます。「AIで速くなったはずなのに、現場の負担が減らない」という声の多くは、ここから来ています。

標準と例外を分ける

AIは標準的な案件を大量に扱うことが得意です。毎月同じ書式で届く定型的な発注書の処理のようなものは、AIが安定して速く処理できます。

一方で、例外の条件が曖昧なままだと、危険な判断まで自動化されてしまいます。「いつもと違う条件の注文だが、担当者の裁量で通していた」というような案件を、標準的な処理の一部として紛れ込ませてしまうと、思わぬところで誤った処理が量産されます。例外の条件と、人へ戻す基準を、業務設計そのものに組み込んでください。

例外を洗い出す実務的な方法は、過去半年の案件を一覧にして、「通常どおり処理したもの」と「担当者が何か特別な対応をしたもの」に分けてみることです。後者を並べると、例外のパターンは意外と限られていることが分かります。その一つひとつに、どういう条件のとき人が判断すべきかを書き添えていきます。

ここで注意したいのは、例外を減らそうとしないことです。例外の多くは、顧客との関係を守るために現場が積み重ねてきた工夫です。減らすのではなく、見えるようにする。これが業務設計の目的です。

測定できる入口を作る

導入前の処理時間、件数、エラー、手戻り、顧客満足を測っておいてください。「請求書の作成に一件あたり何分かかっていて、月に何件のミスが発生していたか」を数字で残しておかなければ、導入後にどれだけ改善したのかを誰にも証明できません。

比較できる基準がなければ、「便利になった気がする」という感想だけが残り、経営判断の材料にはなりません。感覚的な満足度だけで投資を継続するかどうかを決めるのは、経営として危ういやり方です。

測定は、精密である必要はありません。担当者に二週間だけ、処理した件数と、おおよその所要時間を記録してもらう。この程度で十分です。完璧な計測の仕組みを作ろうとして着手が遅れるより、粗くても基準を持って始めるほうが、はるかに実用的です。

一点だけ気をつけたいのは、測定を評価と結びつけないことです。「何分かかったか」が人事評価に響くと分かった瞬間、記録される数字は現実から離れていきます。あくまで業務改善のための計測だと、最初に明確に伝えてください。

現場を設計者にする

現場は、例外や暗黙知を知っています。「この取引先だけは特別な確認が要る」「この時期は繁忙期なので通常の手順を一部省略している」といった情報は、現場の担当者しか持っていません。

経営側は成果と許容できるリスクを示し、現場は手順と失敗しやすい条件を示す。両方が設計に参加しなければ、この取り組みは定着しません。経営が決めた設計を現場に押し付ける形で進めると、現場は表向き従いながら、実際には元のやり方を裏で続けるという状態に陥りがちです。

現場を巻き込むときに効くのは、意見を聞くことよりも、決める権限を渡すことです。「この工程は残すか削るか、現場で決めてよい」という範囲を明示すると、当事者としての検討が始まります。意見だけ求めて決定は上が握る形だと、次から本音は出てきません。

もう一つ、心理的な前提があります。業務の再設計は、現場にとって「自分の仕事が減らされる話」に聞こえます。空いた時間を何に使うのかを先に示さないまま進めると、協力は得られません。第4回でも触れましたが、時間の使い道を先に決めるのは、経営の側の責任です。

設計するときの注意

「業務を変えずにAIだけ入れる」ことは、多くの場合、一番楽に見えて、一番成果が出ない選択です。少し遠回りに見えても、業務そのものを見直す時間を先に取ってください。

設計の進め方

まず着手すること(1〜3か月)

  • 対象業務の開始から成果までの流れを一枚の図に描いてください。

  • 承認、転記、待機の回数を数え、不要な工程を先に減らしてください。

  • 過去の事例から、標準案件と例外案件を分類してください。

定着させること(6か月〜3年)

  • 業務責任者に、工程を変更する権限と成果への責任を持たせてください。

  • AI導入の予算と業務改革の予算を、分けずに一体で管理してください。

  • 改善後の仕事量に合わせて、役割と人員配置を見直してください。

経営者への問い

  • その業務は、今の手順である理由を誰か説明できますか。

  • AIを入れる前に、承認や転記の回数を数えたことはありますか。

  • 例外が起きたとき、誰が判断を引き取る設計になっていますか。

  • 現場は、この業務の再設計に参加していますか。

まとめ

業務の再設計は、AI導入の前工程ではなく、AI経営そのものの一部です。次回は、この再設計が中間管理職の役割にどう影響するかを見ていきます。

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